斜陽

ネガティヴ音大生の憂鬱

さして楽しくもないこと

 

日の短さに、また今年も暮れていく気配をじわりじわりと感じている今日この頃。

 

バイト前のコーヒータイムが唯一の癒しだ。

バイトももう後2回、短い間だったけれど実りの多い日々だった。

そう思えるのは本当に素敵なことだと思うようにしている。

そうでなければ、罪悪感と喪失感で死んでしまいそうだから。

 

色々なことがあった。

初めてお客様に声をかけた日。

お叱りのご指摘を受けた日。

頼まれたお会計の金額の大きさに恐れ慄いた日。

本当はバイトがやる仕事ではないけれどBAの代わりに接客を全て任された日。

勧めた商品を沢山買ってもらえた日。

 

私はもう完全にメイクの魔法にかけられてしまった。

メイクは人生を変え得るツールだ。

本人の魅力を最大限引き出し、性格まで変えてしまえる魔法。

何よりもリアリティのある魔法。

そんな魔法をかけるような素敵なお仕事に一時でも携われたという誇りを忘れないでこれからを生きていきたいと思う。

 

 

さてさてバイトのことはこれぐらいで、本題に入りたいと思う。

金曜日の夜、わりとすぐにLINEがきて会えることになった。

またまた飲み会後にということにということだったけれどまぁそれは全く問題なくて嬉しいばっかりだった。

どんな形であれ、彼の時間がもらえるのだから嬉しいに決まっているんだ。

 

終電間際くらいに駅で合流してまた彼のお家へ。

最近彼は私に極力お金を使わせないようにする...確かにお金はないし残高が常にマイナスな女だけど彼にはそんなそぶり全く見せていないのになぜ急にそんなことを言い出し始めたのか謎だ。

たかが私と過ごしている時はできるだけ安上がりに済むようにしているのか、それともATMを使った時の利用明細書を見られたのか分からないけれどなんだかとても寂しい。

 

なんの為に日々バイトをして節制に努めているのか知ってほしい。

全てはあなたと対等でいたいからなのに。

そうやって言えてしまったらどれだけ楽か。

 

自分では入らないようなお店に行って非日常を味わいたい。

彼といる時だけは違う自分になりたい。

だからパンプスでお会計ダッシュもするし怖い美容部員さんにも愛想笑いをするのに。

彼との時間ぐらいは現実を忘れさせてほしい。

 

うーんしかし、考えてみれば学生と社会人だからなぁ。

配慮したくなるのは当然のことなのかな。

後ほんの少しだけ仲良くなったから情が出てきたとか、そんな風に期待しちゃう自分もいる。

 

 

まぁそれは置いておいて。

彼のお家に行くまでに物陰でキスをしたり、着いてすぐにスーツのまま玄関で無理やりされたり、それはそれは盛り上がった。

うわぁこれBでLな薄い本で読んだやつと内心めちゃくちゃ萌えた。

 

でも彼、盛り上がった末にそのまま寝たからね。

まぁ眠たいやろなと思ってそのまま2時間くらいした後にちょっかいかけたら起きたけどそのままにしてたら昼まで寝てた気がする。

ちょっかいをかけた後になんやかんや色々あって本ちゃんもしたんだけど久しぶりの感覚でだいぶびびった。

 

もう気持ちよすぎてやばい。

自分でやるのとか比じゃないし奥突かれると痛いんだか気持ちいいんだか良く分からんけど本気でやばくなりそうになった。

まぁその後最後までして彼は気持ちよさそうに寝てた。

 

その後朝もいちゃこらして楽しい時間を過ごして、ご飯を食べに行って、路上ライブを見て回ったり、伊勢丹をぐるぐるしたりしてめちゃくちゃ楽しかった。

なんか本当にデートしてるみたいで。

 

でも悲しいことに、彼は彼女の話ばっかりする。

多分私が笑顔で話を聞いているから自然と出ちゃうのだろうけど、本当にこっちとしてはまじでやめてほしいレベル。

胸が痛いんだ。

他の女の話を、そんなにも楽しそうに、しかもくそみたいな内容ばっかり。

私の中の彼女の印象がはっきりしてきてしまった。

化粧をろくにしない、ガニ股、 背が小さくてちんちくりん、かわいい系、語彙力がない、一個年上で当時先輩と付き合っていたのを彼が奪った。

 

彼が知りたくもない情報を植えつけてくるから、どんどん彼女のことが嫌いになってきた。

きっと彼は彼女の好きなところをわざと言わないでいる。

そういう男のプライドみたいなもののせいで、私は余計辛くなっているんだ。

完璧に負けているなら何にも悩まなくて済むのに、そうやって酷いことを言って聞かせるから余計に悲しくなる。

こんなに頑張って、美容に気を使ってメイクを勉強してバイトや楽器を頑張って、教養を身につけるために本を読み、苦手な人付き合いにも力を入れた。

自分が1番綺麗に映える服を買って、綺麗なヒールをはいて、綺麗な歩き方を意識してるのに。

そんな歳でアイラインもろくに引けないような女に勝てないでいるんだ。

悲しい、辛すぎる。

 

彼が伊勢丹を回っている時に唐突に「欲しいものはない?」と聞いてきた。

どきりとして、期待するな、これは彼女へのプレゼントを決めかねているに違いないと確信して「ないね」と即答した。

それに対して彼は、「あっ買ってあげるわけじゃないからね」と一言。

案の定彼女に何をあげようか悩んでいると言う彼のその言葉たちに、私の胸はグサグサと何度も刺されたような心地になった。

なんて残酷なんだ...そんなこと、よく言えるな。

一度考えて欲しかった。

そんなことも考えさせることもできない私は、それだけの価値しかないのか。

なんて、なんて.......。

 

そんなこんな色々彼女の話をされても笑顔で返していた私だけど、その後少しどこかに入って帰ろうかとなってジャズの流れるオシャレなカフェバーに連れて行ってもらった。

雰囲気がすごくよくて本当にドンピシャなところだったからすごく嬉しくて、ウキウキ気分だったのに、ここに来てまた彼は彼女の話をしだしてもう限界を迎えてしまった。

 

笑顔になりたいのに、顔が固まる。

どうしようもないほど冷えていく足先。

そしてとうとう、口から溢れてしまった一言。

「彼女の話飽きちゃったから、今日はもういいや」

必死になって絞り出したその一言に彼は「そっか」

と。

そしてボソリと「女心は分かんないな」

 

そりゃそうだろうな、分からないようにしてたんだもん。

そこの努力も少しは受け入れて欲しいわ。

 

その後、しばらく無言だったけれど頼んでいたものが来て、チョコを片手にマティーニを飲み始めてから本音を話して見たい気持ちがわいてきた。

思い切って言ってみた。

 

ーー話半分で聞いて欲しい、どうでもいい話だから聞かなくてもいい

 

ーーうん、分かった

 

ーー私、勘違いしないように、入れ込まないように自分なりにだけど努力してたの

ーーでも、どうしても彼女の話だけは辛くて、我慢できなくて

 

ーーじゃあもうしないようにするね

 

ーーいや....うん......それが負担になるなら申し訳ないんだけど.....

 

ーー大丈夫だよ

 

 

あの時の彼の冷めたような声色、今でも忘れられない。

私は勝手に熱に浮かされて、1人浮かれていただけだったんだなぁとか。

色々考えて、じゃあもういいや面倒臭いってとこまできた。

悲しいけど、多分この人は私のものにならない。

私と彼女の間には決して超えられない何かがある。

それは肌で感じているけれどやっぱり何なのかは分からない。

だったらもう、いい、面倒臭い、全て、なかったことにしよう。

 

まぁそんな感じでマティーニを早々に飲み干し、感傷に浸りたくてカミカゼを頼み、また中身のないたわいもない話を続けた。

車を取りに行かなければいけなかったので彼は飲んでいなかったけれど、私は私で楽しく酔った。

 

その後彼が車で最寄駅まで送ってくれた。

まぁそんな中でもまた彼は「寂しがりやなんだよね多分、だから優しくされるとすぐころっといっちやう」などと言いやがった。

いや失礼じゃねぇ?

お前それ私じゃなくても良かったって、そういうことだよな?

私は唯一あなたのことが心から好きなのに、そこら辺の有象無象の女と一緒にしてるってことだよな?

本当にもう結構胸が痛んだけどとりあえず「へ〜そうなんだ〜」と返しておいた。

 

彼は、私とのことを一時の過ちとしてしか考えていない。

だから適当に口説けるし、適当にロマンチックなことができる。

だって楽しいんだもん、気持ちいいんだもん、したいことして何が悪いの?

分かるよ、その気持ち、同じことを一緒にしてるんだもん。

でもさ、もう結構、 辛いんだよね。

 

彼と別れた後コンビニでカフェラテを買って歩いて帰った。

すごく虚しくて、心にぽっかり穴が空いたような心地で、本当に嫌だった。

彼とのことは本当に信頼できる人にだけ話してある。

誰に言っても、あなたが傷つくだけなんじゃないかと言われた。

その時は、傷つくって言葉の意味がイマイチよく分からなかった。

それは妊娠したり、そういうこと?

同じ夜を共にするだけで、何かが変わるの?

いいや、そんなことじゃない。

今、その意味がよく分かる。

 

それは大きなものじゃない、むしろ本当に小さな針のようなもの。

彼の言葉の片隅に隠れる私への不信感と、彼女の存在が、確実に私の心を蝕んでゆく。

それはやがて大きな傷となって私を苦しめ、やがて死へと向かい入れるのだろう。

 

彼の「いつかメンヘラになって包丁で刺したりしないよね?」という言葉が忘れられない。

その言葉が全てを表している。

分かっていたけれど、そんな風に言われてしまっては、もう言い訳のしようがないでしょう。

 

あぁなぜ、なぜ報われない。

私はただ人を好きになっただけなのに。

悔しい。

好きになってもらいたかった。

私だけだよと言って欲しかった。

どうしたら、彼女以上になれたんだろう。

悔しい、悔しすぎる。

 

 

誰かの言葉が頭をよぎる。

 

ーー君は、人よりもすごい体験を沢山しているのに、どうしていつもそんなに悲しそうな表情をしているの

 

ーー人生そんなに悲しいことばかり?そうでもないでしょう?

 

違うよ、人生なんて悲しみしかないんだよ。

楽しいことなんて、ありっこない。

だってその瞬間は楽しくても、すぐに悲しみに変わってしまうから。

 

 

ねぇ、人生なんてさして楽しくもないことばかりだよ。