青写真
寒々とした朝、抜けるような青空が心地いい。
この空と清々しい気持ちだけはいくつになっても変わらない。
懐かしいあの頃を少し思い出すエモーショナルないい日だ。
さてさて、最近忙しさから気持ちに余裕がなく文章を書かずにいたけれど、最近はすごく充実している。
オケの練習とバイトとまぁそれ以外と。
楽しいこと全部やっている気がして嬉しい。
やっぱり私は忙しすぎるくらいが丁度いいのかもしれない。
金曜日の夜、キャットに用事があって丁度いいから会おうということになった。
オケ終わりに楽器屋さんに行って、その後彼の家の最寄駅まで行った。
約束よりだいぶ早くお邪魔することになったからいつも駅まで迎えに来てくれるところをお断りして1人で向かうことにした。
夕方の地域の音楽が流れる中、飲屋街の先の閑静な住宅街に彼のマンションはある。
いつも彼と歩くその道がひどく殺風景な気がして落ち着かなかった。
まるで知らない街に迷い込んでしまったような。
見慣れたはずの景色がどこか他人事のような気がする。
何かが足りなくて、その違和感が足を早めさせる。
彼のマンションに着いて、LINEをすると少しして部屋着のままの彼が扉を開けてくれる。
刹那、鼻をくすぐる彼の香りと包み込んでくれるような優しい声が青写真のようだった世界を色付けた。
まるで花が開くように、美しい時がやってくる。
私は卑怯だ。
彼の優しさにすがって、そのひと時の幸福に酔いしれている。
何もかも全て、私1人では作り出せない。
彼がいてくれるからこそ、人らしい生き方を成せるんだ。
どんなに望んだって彼が手に入らないからって、嫉妬という文字をチラつかせて終わりの瞬間を引き延ばしている。
彼なんて、どうでもいいと、そうやって言えたらどんなにいいだろう。
1人で平気とあなたじゃないとダメな間を行ったり来たりして、ずるずるずるずる生温い時間を過ごして、それで一体何になる?
だって彼は、丁度いいものを失くしたくないだけだ、私じゃなくたっていいのに。
そんな悲しい時間をいつまで続けるつもりなの?
そうやって彼の笑うと細くなる瞳を見つめながらどこか冷めた私がずっと問いかけてくる。
多分集中していない感じを彼も察していて。
「今だけは別のこと考えちゃダメ」としきりに言うんだ。
ごめんね、私いつもあなた越しに違う誰かを見つめているんだ。
彼の部屋で、ジャズを聴きながらいちゃいちゃして、そのまま外に夜ご飯を食べに出かけた。
その日はとても寒かったからお鍋を食べて、しこたま日本酒を飲んだ。
飲み足らない分はコンビニの缶チューハイですます。
うーんなんて楽しいんだろう。
これが友達同士だったならなぁ。
いちゃこらしてる最中にクリスマスは1人だから一緒にケーキ食べようなんてことも言われて、嬉しいんだか虚しいんだかで心が乱れまくった。
でもまぁそこは屈強なスルースキルで「あーそうなんだー」軽く流した。
私は、本当の彼氏がほしい。
私だけを愛してくれる優しい彼氏がほしい。
間違っても、浮気相手なんかとは違う。
クリスマスにまで彼女の代役をするなんて、やっぱり嫌だ。
私だけだと言って欲しい。
好きだよと言われたい。
別れてきたから、付き合ってと言わせたい。
なーんてダメなことばかり考えている。
私の夢は、クリスマスに彼氏と過ごして、指輪をもらって、次の日の朝一緒に朝ごはんを食べることだ。
この父譲りの男のような手にはまるような指輪はそこら辺には売ってない。
私のためだけに時間をとってあれこれ悩んで、用意してくれた指輪を恭しくはめて欲しい。
綺麗だよと言われたい。
彼だけの私だと実感したい。
あぁそんな夢を叶えてくれるのは彼じゃないんだろうなと思うと悲しくなる。
寂しくて悔しくて、胸にどっしり重しが増えるような気がする。
どうして、私じゃないんだろう。
どうしたら、私にしてくれるんだろう。
そんなことを、冬の青空に想っている。
彼と迎えた朝、別れる前に「俺のどこが好きなの」とまた聞かれた。
「どうせおっぱいが好きなだけなんでしょ」とも言っていた。
そんな風に言う彼の顔を覗き込みながら、本当にそんな風に思うの?と内心考えていた。
なぜだろう、こんなにも好きなのに、なぜ彼には伝わらないんだろう。
あぁ言ってしまおうか、この思い全て、言ってはいけないことを全て。
どんな顔をするんだろう。
そしてどんな風に謝るんだろう。
ねぇ、あなたは一体何を望んでいるの?
聞きたい、その先にこの脆い関係の破滅があったとしても。
それでも、この違和感には勝てない。
あぁ、今日もまた聞けないままに、青写真のような君のいない風景に静かに白い息を吐くんだ。