それは密かに祈る、夢のようなこと
まるで真夏のような日差しが体の奥まで突き刺さるようで気が滅入ってしまうけれど、それはそれでまた何だかわくわくするような気もしている。
青葉が、青空が、くっきり見えて何もかも美しく見える。
クラクラするほどの輝きにただ静かに、1人で興奮する私がいのだ。
この美しい日に何ができるだろうか....いや何をしようか。
選択権は常に、この手にあるのだと忘れないようにーーー。
引きこもりクソニート音大生は、そろそろ就職についてあれこれ進め始めている。
なんだかんだ言って、相当ハードモードで人生を歩んできた私だが、もうなんだかむちゃくちゃやりたいようにやらせてもらったおかげで、普通の就活はできなくなっている。
高校は音楽のために途中で通信に転向したし、その後の受験で失敗したために大卒の資格を得られないコースに入学した。
専門士も得られないので学歴は相当酷い。
とっちらかりのかっすかすだ。
「でもまぁそれはそれで重荷がなくていいかなぁ」なんて自分のことなのにありえないほど無責任にぼんやり考える。
日差しを避けながら並木道のベンチにこしかけ、行く人の流れを眺めていた。
兄2人はもう社会人としてしっかり勤めているし、父と母は私が最後の1人だから放任主義を貫いてくれている。
あの日、音楽を選んで地元を飛び出して、知らない土地で1人今日までなんとか生きてこれたのは両親のおかげもあるけれど、まぁ私のこのよく分からない柔軟性があってこそなんだと思う。
大丈夫だと思う、多分だけれど。
私は多分、私の生きたいように生きられる人間なのだ。
音楽が好きだった。
この世界の全てに絶望していたあの頃、私の拠り所は音楽にあった。
私からアクションをかければすぐに答えてくれるのが嬉しくて、音楽という波のような空間にこそ自分の居場所があるのだと強く思っていた。
けれど大学に入って、様々なことを目にして耳にして体験して、それは一変する。
まるで深い谷の底に落とされたような、暗闇の中にただ一人。
沼に足を取られ身動きもできずただ光を求めてもがいている。
そんな絶望に、私は再び浸かってしまったのだ。
音楽というのは、とんでもない孤独なものだ。
いつくるか分からないチャンスの為に、ただひたすは毎日毎日一人で鍛錬に励む。
相手あってこその音楽なのに、自分の耳を頼りに、ただただ技術向上に励むのだ。
私は、そんな孤独以上に、人と競い合うということに耐えられなかった。
私がいくら足掻いても超えられないような上を、軽々飛び越えていく人たちがいることが、受け入れられなかった。
孤独な毎日の中で、繰り返し考えているのは、そんな嫉妬の念ばかりだった。
ーーただ悔しかった
私だって努力すればきっと、資金があればきっと、コミュニケーション能力を伸ばせばきっと......
そんな風に何度だって思ったけれど、きっとダメなんだと思う。
どんなに私に足りない何かを満たしたとしても、決定的に欠落している部分が、どうしたって得られないから。
私になくて彼らにあるもの、それは「圧倒的な熱量」だった。
孤独に負けないほどの、他人と比べられてもなお立ち上がるほどのそれが、私には決定的に足りない。
だって、私は音楽が好きなんじゃなくて、多分、「私を受け入れてくれる音楽」が好きなだけなのだから。
私を拒む音楽を、私自身は受け入れられない。
苦しみを耐え抜くほどの熱量は今の私には全くない。
だから、もう嫌いになる前に、これ以上負を背負いこんでしまう前に、自分自身の足でしっかり歩んでいけるように音楽から離れたいと思う。
これはきっと英断。
間違いはない、これは私の本当の気持ちだ。
熱量は夏の日差しに似ている。
美しくて、愛おしくて、痛いのだけど、気合が入る。
きっと私はこの夏を、ずっと前から知っていたんだ。
いつかこんな日が来ると、ずっと前から気づいていた。
頑張ろうと思う。
孤独とともに、自分らしく生きていこうと、今はそう思う。